隣の中国人

隣に住んでいる中国人は料理の達人です。

残念ながらその料理を食べたことはありません。ただアパートの隣同士というだけの関係で、友達でもなんでもないので。

名前も忘れてしまいました。一人暮らしの大学に通うまじめな青年というのも見た目から私が勝手に思っているだけで本当のところはわかりません。

たまに廊下で会えば「こんにちは」と言うだけの、仲ともいえない仲です。

彼は月に一度か二度のペースで、自分のアパートの小さなキッチンを使い本格的な料理を作ります。たぶん彼の趣味なのでしょう。

そのとき、料理の匂いが換気扇を通して漂ってくるのですが、それがものすごくおいしそうで、どんなに食事直後のお腹がいっぱいな時でも、その料理の匂いを嗅げばすぐにまたお腹が減ってしまうほど、驚くほどおいしそうな良い匂いです。

これほどおいしそうな匂いのする料理を作るのだから、信じられないほど腕の良い料理の達人だと勝手に想像しています。

何を作っているのかはわかりません。まだ友達ではないので。

察するにおそらく中華料理です。しかし「これは酢豚だな」とか「今日はエビチリだ」などと簡単にわかってしまうような単純な匂いではありません。

そのおいしそうな匂いは複雑で、既存のジャンルをはるかに超えた未知のおいしさを想像させられます。

横浜の中華街へ行ってもこれほど良い匂いのする店は他にありません。(横浜中華街へは何十年も前にデートで行ったきりで、その時の記憶に基づいた感想ですが)。

それがこの数週間、彼は料理をしていません。

新型肺炎がニュースになってからです。

故郷を思って落ち込んでいるのか。中国人ということで心ない非難を受けて元気をなくしてしまったのではないか。

友だちでもないのに勝手にいろいろ心配していました。

それが今日、ものすごくおいしそうな料理の匂いが久しぶりに隣から流れてきました。

少なくとも、料理をする元気だけは戻ってきてくれたようです。

勝手に少しホッとしました。

 

一日も早く事態が収束することを祈っています。




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