鍵なき世界

防犯上の問題があるので、この話は私の家だけのことだと思ってください。

高知県日高村に住んでいる頃、家の鍵を持って出かけたことがありません。いつも家の勝手口は開けっ放し。

それでも日高村では泥棒に入られる心配はありません。

役場の人に聞くと、日高村で空き巣被害があったのは「10年ばあ前やったろうか」。とにかく記憶にないほどの昔、大阪からやってきた流れ者の泥棒に一軒、空き巣に入られた家があったそうです。

実際日高の暮らしは安全そのもの。家を犯罪から守ろうなどという発想すらありませんでした。(もちろんこれは私の家だけの話で他の家はちゃんと防犯しているはず)。

他人を信頼して暮らすのは自由そのもので、本当に伸び伸びとした毎日を送っていたものです。

 

さて、今月から暮らし始めた東京多摩地方はどうかと何人かに聞いてみたところ、いずれも鍵を掛けずに家を空けるのはやはり危険だと言われました。

ところが今日、うっかり鍵を持たずに外出。

その後妻は鍵をかけて別の場所へ出かけたので、私は締め出されてしまいました。

本当に不自由です。用事は終わっているのに家へ帰ろうにも帰れません。

そこは高知と違い、多摩といえどもコーヒーを飲んで時間をつぶせる店が、駅ひとつにつき100店ほどあるので退屈ではありませんでしたが、

「人を見たら泥棒と思え」みたいな暮らしは刑務所のようで、アパートの部屋が独房のように息苦しく感じます。

自分を鍵の内側に閉じ込めなくてもすむ贅沢な世界が本当になつかしい。

と、思っていたら

帰ってきた妻が間違えて隣の部屋のドアを開けてしまいました。独房のようなうちとそっくり同じドアのせいです。

幸いお隣さんは不在でしたが、ドアはすっと開きました。

東京にも少なくとも一人、人を信頼して暮らしている自由な人物がいます。




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