40年ほど前、野猿街道近くの森の中に小さな沼があって、そこに2メートルを超える巨大な鯉が住んでいました。
見たことはありません。
当時小学生だった私は友達と一緒に自転車で沼まで行き、巨大魚を見ようとじっとほとりに隠れて待っていましたが、結局見ることはできませんでした。
この沼は今どこにあるのか?
今日近くから来た人と会ったので聞いてみました。
というのも今の野猿街道周辺には昔の面影がまったくありません。
私が小学生だった頃、この道はどこまでも広がる森の中を走るさびしい一本道でした。
ところが道は現在片側2車線の立派な幹線道路となり、周囲にあった深い森はすべて開発され、今では木々の代わりに見渡す限りの住宅街が広がっています。
思い出の巨大魚の沼は、当時道路から奥へ入った深く暗い森の中にひっそりとありました。
「埋め立てられたと思うぞ。」
今日会った人は沼は開発で鯉もろとも埋め立てられてしまったのではないかと教えてくれました。
「確かにそんな噂のある沼はあった。だけどいつの間にかどこかへ消えてしまったよ。」
景色はおろか土地の形状さえも昔とまったく違ってしまっているので今となっては沼がどこにあったのかわかりようがありません。
今日丘を越えてどこまでも立ち並ぶ数千棟の家々のどこかひとつ、その地下深くには今も生きたまま埋められた2メートルを超える巨大な鯉が眠っているのかもしれません。
ところで、
2メートル超の巨大な鯉を見られなかった小学生の私たちは、そのまま自転車に乗り近くの淡水魚専門店、吉田観賞魚へ行きました。
その入口の池に1.5メートルの看板鯉がいたからです。
自分と同じくらいの大きさの鯉を見た驚きは相当なもので、今でもその衝撃をよく覚えています。
2メートルでなくても1.5メートルで十分満足でした。
こっちの鯉が最期どうなったかは知っています。亡くなった時に新聞に載ったからです。
1.5メートルは天寿を全うしました。
すべてが変わってしまった野猿街道沿いにあって、吉田観賞魚だけは今でも健在です。
ただおっさんと小学生のたまり場だったこの泥臭い店も、今はセンスの良いおしゃれなガーデンショップに生まれ変わっています。
名前も、グーグルマップによればヨシダフィッシュファームになっていました。
多摩に帰ってきてまだ行ったことはありませんが、もはや店先に巨大鯉がとぐろを巻いていそうな妖しい雰囲気はありません。
代わりに世田谷や品川ナンバーの高級車が駐車場に並んでいます。