言葉なき衝突

道を歩いていたら後ろから来た軽自動車のサイドミラーが私の右ひじにコツンと当たりました。

少し先で車が止まったので一つ抗議しなければと車内をのぞき込むと、

運転席にはヨボヨボのお爺さん、助手席にはその奥さんとおぼしきお婆さん。

二人は無言でじっとこっち見ています。

動揺するわけでもなく、反省するわけでもなく、無表情。二人とも顔にはなんの表情も浮かんでいません。

「ミラーが私の肘に当たりましたよ。」

と言っても二人は無言のまま。じっとこっちを見ているだけで窓を開けようとすらしません。さらに続けて

「もっと気をつけて運転しなきゃだめじゃないですか。」

と言っても、老夫婦はこっちを見たままで何も言いません。

これはいったいどうしたことだろう。

私もそれ以上どうしてよいのかわからず、ただ黙って窓ガラス越しに運転席のお爺さんを見つめ続けました。

多摩市というところは異常者や変質者がとても多く、見知らぬ人とはできるだけ関り合いにならないようにするのが平穏無事に暮らしてゆくコツです。

もしかしてこの老夫婦は私を異常者だと思っているのか。頭のおかしい男に因縁をつけられているとでも思っているのかもしれない。

そう考えるとだんだん腹が立ってきました。

私は車をぶつけられた被害者のはずです。

これ以上続けると怒鳴ってしまいそうなので、もう行ってくれと手で合図すると、爺さんは待ってましたとばかりにさっさと車を走らせ行ってしまいました。

どうやら口はきけなくてもジェスチャーは理解できるようです。

もし高知で同様の事故が起こったら、絶対こんなことにはなりません。

お互いに人間である以上何らかの言葉を使ったコミュニケーションが必ずあると思います。

人に車をぶつけておいて「ごめんなさい」の一言もなく走り去る。

私の知る限り高知ではありえません。その前に住んでいた埼玉でもたぶんありえません。

多摩ってそんなところ。

また多摩が嫌いになりました。

しかし、

あれはもしかしたら人間ではなかったかもしれません。

高知ではよく空飛ぶ虫が体に激突してきました。

特にこの時期カメムシが勢いよくぶつかってきたものです。

昼間私にぶつかってきたのは、人間に化け車を運転していたカメムシ夫婦の可能性もあります。




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