
高知県日高村で作られている世界一薄い和紙が、昨日テレビで紹介されていました。
番組には日高村の風景も映っていて懐かしさで胸がせつなくなりました。
日高村と私が今住んでいるここ東京多摩市の最大の違いは、和紙を作っているかいないかもさることながら、暮らしにあいさつがあるかないかにあります。
ここ多摩市では基本的に知らない他人は空気と同じで、すれ違ってもあいさつは絶対にしません。
一方、日高村では知らない人でもすれ違えばたいていあいさつはします。
なんなら一言二言、相手を楽しませる言葉もさらっと交わしたりもします。
どちらが良いかと言えば、
それは断然日高村の方に決まっています。
あいさつのある暮らしには人間らしい温かさがいつも漂っていました。
日高村に暮らした数年の間に、こうしてせっかく自分の心に芽生えた人間らしさを、このまま東京の冷たい風に吹かれて忘れ去ってしまってはいけない。
反省した私は今日から知らない人でもすれ違う時にはあいさつをすることに決めました。
ただし駅前や繁華街でやると頭がおかしいと思われるのでとりあえず近所で。あと職場の周辺で。
もちろんその他にも若干の注意点があります。
まず子どもはダメです。知らない子どもにあいさつをしてはいけません。
多摩の子どもたちは常に犯罪の被害者となる危険にさらされているので、知らない人に話しかけられたらすぐ親や学校の先生に通報するよう日頃から訓練されています。
そんな子どもたちを相手にうかつに「こんにちは」なんて声をかけようものなら、即警察に通報され、多摩市の不審者情報メーリングリストで全市に一斉送信されてしまいます。
子どもにはあいさつできません。絶対に。
次にやはり知らない女性にもあいさつはやめておいたほうがいいかもしれません。
多摩市はとにかくたくさんの変態が街を徘徊しているで、年齢性別を問わず、自分が女性だと思う人なら誰でも昼夜を問わず警戒して歩かなければ危険です。
女性にあいさつはやめておきます。
こうやって考えていくと、
やはり知らない男性にもあいさつはやめます。
多摩の男たちはたいていみんなストレスでイライラしているので、知らない人から話しかけられると怪しい物を売りつけられるか、宗教の勧誘と早合点し、「なんだこの野郎!」と怒鳴られる危険があります。
やっぱり男性もスルーした方が無難です。
それに、たまたまあいさつした相手が街一番のド変態だったなんてことも十分ありえます。
あいさつした途端、いきなりブスっと刺されることだって覚悟しなければ。
こうなってみると、多摩であいさつできる相手は老人しかいなくなってしまいました。
それもできるだけヨボヨボの人なら殴られることもなくなお安全にあいさつできそうです。
そのようなわけで今日はさっそくお一人、ご近所ですれ違った知らないおばあさんに「こんにちは」とあいさつをしてみました。
できるだけ日高村スタイルでフレンドリーに。
するとありがたいことにおばあさんも笑顔になり「こんにちは」と返してくれたではありませんか。
ほんのひととき、私の心の中に日高村が帰ってきました。
暑いのに気持ちが温かくなりました。
このクソ暑い猛暑の真っ只中にあっても、まったく不快にならない不思議な心地よいやさしい温かさ。
私たちが日高村へ帰るのはまだ先になりそうですが、
心に日高村を作る方法を今日はひとつだけ見つけることができました。