思い出の流れつく場所

多摩ニュータウンの団地の3階から大きな食器棚を3台、運び出しました。

一人になってしまったお爺さんが施設へ移るので処分するためです。

預かった食器棚はトラックに乗せてそのまま処分場へ持ってゆき、

私の目の前で巨大な鉄の鋏をつけた重機によって容赦なく破壊され、あっという間に廃材へと姿を変えました。

この食器棚にたくさんの思い出があるだろうお爺さんがこの非情な破壊を見たら、きっと心が張り裂けてしまうだろう。見ないでよかった。

私はお爺さんとは縁もゆかりもありません。そのせいか食器棚には思い出のかけらすらありません。そんな赤の他人の私が見ても、古い家具が破壊される光景は心が痛みました。

木っ端微塵に破壊されているのはお爺さんの思い出じゃない、ただの古い家具だ。

と自分に言い聞かせ、その場をなんとかやり過ごしました。

それにしても午後の多摩ニュータウンは気味が悪いほどに静まり返っていて、どこを見回しても動いているのは風しかありません。

列をなして建っている四角い団地の中には、今日もたくさんの人が住んでいるはずなのに、人の気配などどこにもない。

今思うとあれは団地などではなく、もしかしたら巨大な墓石だったのかもしれません。




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