京王百貨店に牛肉どまん中がやってきてくれました(写真)。
牛肉どまん中というのは山形の駅弁で、
私と私の胃袋がこの駅弁と出会うのはかれこれ十数年前ぶり。
大宮駅で毎週会っていた以来になります。
当時、川越に住んでいた私は臨時の鍼仕事で半年ほど夕方大宮へ通うことがあり、帰りに必ず駅の売店でこの牛肉どまん中を買い、家で夕食として食べていました。
牛肉どまん中は今でこそ大出世して、もはやそんじょそこらでは手に入らない高嶺の花の駅弁になってしまいましたが、
私が出会った頃のどまん中はまだそれほど人気がなく、
値段も1000円を切っていて、夕方のお弁当売り場でも山積みになっていたのを覚えています。
ただ味は今とまったく同じ。誰も注目していなくたって当時から異彩を放つものすごく美味しい駅弁で、私の大宮での出張仕事があまりうまくいかなかったこともあり、ただただ牛肉どまん中をこの手に抱くことだけを楽しみに毎週川越線に乗っていそいそと大宮へ通っておりました。
半年ほどで大宮での仕事が終わると、
私とどまん中との甘い逢瀬も終わりを迎えました。
ただあの味だけはいつまでも忘れ難く、いつかまた大宮へ行ったらあの駅弁を買おうと思っていたら、
あれよあれよというまに牛肉どまん中は大出世。
テレビでも紹介されるし、各地で開催される駅弁フェアでも大行列、いつの間にかもう私のような凡人には手の届かない駅弁となってしまいました。
それから十数年が経ち、
こうして偶然ばったり百貨店の入り口で懐かしい駅弁と出会ってしまったら、もう家へ連れて帰るしかありません。
久しぶりの牛肉どまん中は一回りほど大きくなったような気がします。
当然です。
私たちが出会った頃のどまん中は相撲取りで言うならまだ部屋に入門したばかりの新弟子、それから十数年が経ち今や横綱となったどまん中が一回りも二回りも大きくなっていたとしても何ら不思議ではありません。
いや、もしかしたら私が歳を取り小さくなったのかもしれません。
どっちだって構いやしません。
出会えたことが奇跡。
どちらにしてもいまや全国十万駅弁の頂点に立った牛肉どまん中。
手にずっしりと重厚な威厳を感じました。
食べても食べても、出てくる出てくる牛肉牛肉牛肉アンド米、ちっとも減りやしません。
まったく大きくなりました。
うれしくて胸にグッとくるものがあります。
ところで、
妻は当時毎週牛肉どまん中を買ってくる私を快く思っていませんでした。
こっちが毎週「どまん中いる?」と聞いても、返ってくる返事は必ずぶっきらぼうな「いらない」。
まあ仕方ありません。私は牛肉どまん中を愛人のようにかわいがっていたので、妻はヤキモチを焼いていたんだと思います。
妻はどまん中を食べたことはないはずです。一度も。一方の私は数えきれないほど食べているのに。
今回も偶然ばったりどまん中と再会した私は即座に妻にラインして、
「牛肉どまん中買うかい?」と聞くと、返事はやっぱり「いらない」。
びっくりです。
あれから十数年も経っているのに、妻はまだヤキモチを焼いていました。