人を信じない子供たち

「知らない大人は絶対に信用してはいけない」。多摩市の子供はそう教わるそうです。

私の友人のお嬢さんがまだ小学生だった頃。

友人がお嬢さんを小学校まで迎えに行くことがありました。

当時学校は不審者が侵入する事件が多発していたため、父親といえども敷地内にはただでは入れません。

胸に大きく「PTA」と書いたネームプレートを必ず付けていなければ学校内には入ってはならないルールになっていました。

しかし友人はそのネームプレートを忘れ、あろうことか忘れていることを学校の敷地内で一人の見知らぬ少年に教わることになります。

誰もいない小学校の玄関で、ばったり出くわした低学年の少年と友人。

ネームプレートのない見知らぬ男と神聖な学校内で出会ってしまった少年はどんなに恐ろしかったことでしょう。

彼は恐怖に慄きながらも、それでも素早く首からぶら下げた防犯ブザーの紐を握りました。

友人はその少年の驚愕した顔を見て、自分がネームプレートを付けていないことにようやく気がつきました。

「少しでも、足をほんのわずか動かしただけでもこの少年はブザーの紐を引くだろう。ブザーが鳴ったら、大勢の先生たちが刺股を持って駆けつけて、俺は犯罪者になってしまう。」

友人はそう思い、もう一歩も動けません。

何か言わなければ。しかし何か一言発しただけでも、それが引き金になって少年は紐を引くだろう。何も言えない。友人は焦りました。

「俺は怪しい人間じゃない。」

心の中で何度もそう叫んだそうです。

「だけどどう思う?自分で怪しくないって言う奴。」

友人は自問しました。「そう言う奴が一番怪しい。」

防犯ブザーを鳴らすか鳴らさないか。睨み合う少年と大人。

1時間にも思われる30秒が過ぎた頃、ようやくお嬢さんが来て事態は無事収束しました。

 

今でも多摩市の防犯メーリングリストには毎日のように不審者情報が配信されてきます。

このような環境で子供たちに大人を信用しろと言っても無理な話です。

全裸でうろつく男が、捕まえても捕まえても次から次へと公園や通学路に現れる街では、

子供たちを守るために大人は信用するなと教えなければいけません。

でもこれは子供の将来にとって良いことなのでしょうか?

子供のいない私にはわかりません。

人を信用しないで人は幸せになれるのか。

ところで、

高知県日高村にも防犯メーリングリストがあり、住民として加入したのですが、

こちらは待てど暮らせでど何一つ情報が入ってこないので、止めてしまいました。

日高村に不審者はいません。

おかげで日高村の子供たちは見ず知らずの私にもいつも笑顔で挨拶をしてくれます。




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