イダ、いのししの赤ちゃんを救う

大学時代、共にアイスホッケーに打ち込んだ友人イダが家族を連れて高知の私の家へ遊びに来てくれました。

奥さんと中二の息子さん、小学校4年生のかわいいお嬢さん。とても仲の良い穏やかで自然が大好きな4人家族です。

ホッケー部では私の一年後輩だったのでイダ、イダと呼び捨てで呼んでいましたが、家族の大事なお父さんを呼び捨てするのは心苦しく、今はイダさんと「さん」を付けて呼んでいます。

ただこの日記では大学時代の自然な呼び方「イダ」にしました。

 

土曜日、イダ家族と私たち夫婦で仁淀川源流の地、安居渓谷へ。

水晶淵で仁淀ブルーを楽しんだあと、川沿いを歩いて下っていると、川幅1メートルほどの流れをはさんだ反対岸の水際で、コケだらけの岩にしがみついて小さなうり坊(いのししの赤ちゃん)が右往左往しています。

向こう岸は数十メートルはある断崖絶壁。

よく見るとうり坊は後ろ脚をケガしていて、どこか上の方の崖から落ちたようです。

周囲に他のいのししの姿はなく、この赤ちゃんは一人でこの過酷な試練を乗り越えなければなりません。

小さなうり坊は崖を登ろうとしては足を滑らせ、川を渡ろうとしても流れは速く、まだ小さ過ぎて川幅が1メートルであっても水へ飛び込む勇気は出ません。

ケガをした後ろ脚を引きずりながら、崖と川の間の濡れた岩の小さな隙間にしがみつきながら、どこにも行けずにおろおろするばかり。

川の対岸では、私たち人間たちもまた何もできずその様子をただ見ているだけ。

可哀そうだけどこのままあきらめて帰ろうかと誰もが思ったその時、

「俺、助けに行ってくる。」

イダが静かに、しかし力強く宣言しました。

「お父さん!濡れると大変だからカバンは置いて行って!」

川の方へ歩くイダに奥さんが励ましなのかよくわからない声をかけます。

「お父さん!ポケットの物も全部出さないと!」

息子さんも応援(?)します。お嬢さんは黙ったまま憧れの眼差しを父親の背中に投げていました。

イダはカバンとポケットの中身を全部息子に預けると、躊躇することなく川の中へ。

川幅は短くても、深さは彼の肩まであります。

流されないように向こう岸につくと、逃げる場所のないいのししの赤ちゃんはすぐにイダの両手に捕まりました。

「ピギー!ピギー!ピギー!」

必死の鳴き声が渓谷に響き渡ります。

イダは、濡れないように両手で小さなうり坊を上に高く持ち上げながら、よろよろと川を渡ると、安全で歩きやすそうな場所を見つけ、うり坊をそっと降ろしました(表題写真)。

うり坊は、鳴くのを止め、足を引きずりながら山の中へ。

姿を消す直前、うり坊は一瞬振り返ってイダを見たのですが、私にはその小さな瞳が「ありがとう」と言っていた気がします。

私は友人の行動にとても感心すると同時に、彼をとても誇りに思いました。

さすが上智大学体育会アイスホッケー部の出身だ。私のチームメイトだ。

愛にあふれたカトリック精神と勇気と行動力はさすがに誰にも負けない。(まあ私たちは二人ともカトリック教徒でも何でもない普通の日本人ですが)。

さて、

もう一人の元上智大学アイスホッケー部員、つまりこの私は、このとき何をしていたのか?

恥ずかしいことに、何もしていません。

「何とかしてやって」と頼む妻に対して私が言ったのは、

「今夜の夕食を探している誰か、人でも動物でもがあのうり坊を見たら放っておかんろ。今この瞬間もどっかでトンビが狙ってるよ。」でした。

私も冷たくなったものです。学生時代のあの熱い青年はどこへ行ったのか。

長年の病院勤めで死と接し過ぎたのか、あるいは山歩きで動物の死体を見過ぎたのかのどちらかだと思います。

 

ただ、古い友人の勇気ある行動が私を変えてくれました。

今度、どこかで小さな動物が困っていたら、必ず助けます。




コメントを残す