あるキリギリスの一生

この雨が降る前ですから1週間くらい前でしょうか、

実家の倉庫へ行くと中に一匹の大きなキリギリスが侵入していました。

古い倉庫なのでどこかの隙間から入ったようです。

倉庫の中なら確かにもうすぐやってくる雨風はしのげますし、天敵もいなさそう。なのでキリギリスにとっては安全な環境と思われます。

ただしエサはありません。

キリギリスが何を食べるのかは知りませんが、倉庫の中は自然のものがゼロなので外へ出られなければ食べるものがなくなっていずれ飢え死にするはず。

こんな牢獄みたいなところでお腹を空かせて死んでほしくはありません。

そこで捕まえて外へ逃がしました。

外へ出したら自分で歩いて草むらかどこかエサのあるところへ移動してくれるだろう。

翌日、

再び実家の倉庫へ行ってみると昨日逃がした同じキリギリスがまた中に入っていました。

どうしてこれが昨日と同じキリギリスだとわかったかと申しますと、紹介が遅れました、

このキリギリスは左の後ろ脚と右の前足がそれぞれ一本なかったからです。

こんな特徴のキリギリスは滅多にいないのですぐに同じだとわかります。

こうしてまた侵入して来るくらいだからよほどうちの倉庫の中が好きなのはわかりました。

わかりましたけれど、それでもやっぱり飢え死にしてほしくはないので再び捕まえて外へ。

今度はわざわざ雑草だらけの空き地まで連れて行きそこで放しました。

脚のないキリギリスが自然の中で暮らしていくのはとても大変だと思います。天敵が来てもうまく逃げられないかもしれませんし、目の前にエサがあってもうまく捕まえられないかもしれません。

きっとこのキリギリスは生きるのが怖くて辛くて、今流行りの言葉で言えば安心安全を求めてうちの倉庫の中へたどり着いたのでしょう。

だけどやっぱり密室に閉じ込められてただ死を待つよりは、辛くても自然の中で生きる方がましなのでは。

そう考え、心を鬼にして草むらへ連れて行き「上手に生きろよ」と言い聞かせて草の上に置いてきました。

今日長い雨がようやく止み、1週間ぶりくらいに実家の倉庫へ行ってみると、

一匹の大きなキリギリスが中で死んでいました。

左の後ろ脚と右の前足がそれぞれ欠けていたので間違いなくあのキリギリスです。

よっぽどこの倉庫の中が好きだったのか、あるいは外の世界が生きるには厳しすぎたのか。

どちらにしても、このキリギリスは上手に生きることができませんでした。

合掌。




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